「シラスウナギが豊漁だったのに、なぜうなぎは安くならないのか」と疑問に感じていませんか。うなぎの価格には、稚魚代だけでなく、養殖中の飼料費や燃料費、加工費、輸送費なども含まれています。相場が下がっても、すぐ店頭価格へ反映されるとは限りません。長年うなぎを扱ってきた山美世が、仕入れ現場から見える価格の仕組みと今後の見通しを率直にお伝えします。
稚魚が安くなりゃ、明日から鰻重も安くなる――鰻の値段は、そんな単純な話じゃねぇんだ。」
うなぎの価格を押し上げる主な要因
うなぎの値段が上がった理由として、シラスウナギの不漁がよく挙げられます。
たしかに、養殖のもとになるシラスウナギの取引価格は、うなぎの原価を左右する大きな要素です。しかし、私たちが口にする蒲焼やうな重の値段は、稚魚代だけで決まっているわけではありません。
養殖場で育てる費用、加工や輸送にかかる経費、店で一尾ずつ調理する手間まで、さまざまなコストが積み重なっています。
稚魚から一皿になるまでにかかる費用
現在、国内で流通している養殖うなぎは、天然のシラスウナギを養殖池へ入れ、食用に適した大きさまで育てたものが中心です。
人工ふ化から次の世代の親魚まで育てる「完全養殖」には成功しており、人工種苗を量産するための研究も進んでいます。
ただし、天然のシラスウナギに代わって、養殖場へ安価かつ安定的に供給できる段階にはまだ至っていません。そのため、当面は天然のシラスウナギの採捕状況が、養殖業全体に影響する構造が続くと考えられます。
養殖池の水温を保つ燃料費や電気代
シラスウナギは、養殖池へ入れてから出荷できる大きさになるまで、一定期間育てる必要があります。
養殖場では、うなぎが育ちやすい環境を整えるため、水温や水質を管理します。特に気温が低い時期には池を温める必要があり、重油や電気が欠かせません。
原油価格や電気料金が上がれば、稚魚の価格が変わらなくても、うなぎを育てる費用は増えていきます。
成長するまで毎日必要になる飼料
養殖うなぎには、魚粉などを原料とした配合飼料が使われます。
魚粉の価格は、原料となる魚の漁獲状況や海外での需要、為替、輸送費などの影響を受けます。飼料代が上昇すると、うなぎを出荷できる大きさまで育てる養殖場の負担も大きくなります。
ニュースではシラスウナギの価格が注目されがちですが、毎日与える飼料も、養殖原価を構成する重要な要素です。
加工や輸送にも費用がかかる
養殖場から出荷されたうなぎが、そのまま専門店の一皿になるわけではありません。
大きさや状態による選別、活鰻の輸送、加工、梱包資材、冷蔵・冷凍設備など、流通の各段階で費用が発生します。
燃料費や人件費が上がれば、養殖場から店へ届ける費用も増えます。うなぎの販売価格には、稚魚の仕入れから店へ届くまでにかかる、幅広い経費が反映されています。
シラスウナギ価格の変動と仕入れへの影響
「うなぎの価格が高騰している」と聞くと、シラスウナギの取引価格も毎年上がり続けているように感じるかもしれません。
しかし、実際の相場は年によって大きく変動します。採捕状況だけでなく、養殖場に残っている成鰻の在庫や、養殖業者が新たに池入れする稚魚の需要も価格に影響します。
稚魚相場は採捕量と需要で動く
シラスウナギの価格は、その年に採捕された量が少なければ必ず上がり、多ければ必ず下がるという単純なものではありません。
養殖場に出荷前のうなぎが多く残っていれば、新たなシラスウナギを仕入れる需要が弱くなることがあります。反対に、池入れしたい養殖業者が多ければ、採捕量が一定でも価格が上昇する可能性があります。
シラスウナギの相場を見るときは、採捕量だけでなく、養殖業者側の需要や成鰻の在庫状況も考える必要があります。
採捕量から資源量を単純に判断するのは難しい
シラスウナギの採捕量は、資源の状態だけで決まる数字ではありません。
養殖技術が向上し、以前より少ない稚魚から多くの成鰻を育てられるようになれば、必要とされる稚魚の量も変わります。養殖業者の数や経営状況、輸入量なども、国内で採捕される量に影響します。
また、ニホンウナギの資源が減少した原因については、海洋環境の変化、生息環境の悪化、河川構造物、漁獲など、さまざまな要因が指摘されています。
一つの原因だけに決めつけず、複数の要素が重なっていると考えるのが適切です。
一年の相場だけでは先を読めない
シラスウナギの取引価格が下がった年があっても、翌年も同じように推移するとは限りません。
採捕状況や輸入量、養殖場の需要が変われば、相場は再び上昇する可能性があります。逆に、稚魚の供給が増え、池入れ需要が弱ければ、価格が落ち着くこともあります。
そのため、一年分の豊漁や取引価格だけを見て、今後のうなぎが安くなる、あるいはさらに高くなると断定することはできません。
豊漁が店頭価格に反映されるまでの流れ
シラスウナギが多く採れたというニュースを見れば、「今年はうなぎも安くなるのでは」と期待するのは自然なことです。
ところが、ニュースで報じられているのは、養殖が始まる前の稚魚についての話です。私たちが食べる大きさに育つまでには、養殖場で過ごす時間があります。
稚魚相場と販売価格に生じる時間差
冬から春に採捕されたシラスウナギは、養殖池へ入れられ、出荷に適した大きさまで育てられます。
養殖期間は、池入れの時期や水温、育て方、出荷する大きさなどによって異なります。豊漁の年で稚魚の価格が下がったとしても、その稚魚から育ったうなぎが、すぐ翌月に店へ並ぶわけではありません。
稚魚相場の変化が成鰻の仕入れ価格へ届くまでには、どうしても時間差が生じます。
現在流通するうなぎには過去の費用が反映される
今、飲食店や小売店へ出荷されているうなぎは、数か月前から養殖場で育てられてきたものです。
稚魚価格が高かった時期に池入れされたうなぎであれば、その仕入れ費用が養殖原価に含まれています。育てている間に使った飼料代や燃料費も、出荷まで積み重なります。
今年のシラスウナギ相場が下がっても、すでに育っているうなぎの原価が、その場で下がることはありません。
稚魚が安くなっても固定費は残る
シラスウナギの取引価格が下がった年でも、池を温める燃料費や電気代、飼料代、人件費まで同時に下がるとは限りません。
加工後にかかる運送費や資材費も同様です。
稚魚代はうなぎの価格を左右する大きな要素ですが、養殖から販売までに必要な費用の一部です。豊漁のニュースが、すぐ店頭での大幅な値下げにつながりにくいのは、このためです。
うなぎの価格はこれからどう動くのか
「結局、うなぎはいつ安くなるのか」と聞かれることがあります。
残念ながら、専門店の立場からも、具体的な時期を断言することはできません。シラスウナギの相場に加え、成鰻の在庫、養殖費、流通費など、価格を左右する条件が毎年変わるためです。
専門店から見た今後の見通し
シラスウナギの取引価格が落ち着けば、これから養殖されるうなぎの原価を抑える材料にはなります。
ただし、その影響が成鰻の価格に表れ、さらに飲食店の仕入れ価格へ届くまでには時間がかかります。燃料費や飼料代、物流費が高い状態で続けば、稚魚価格の変化がそのまま店頭価格へ反映されるとは限りません。
価格が動くとしても、かつての水準へ一気に戻るというより、需給に応じて少しずつ調整される可能性が考えられます。
翌年の採捕状況で相場が変わる可能性もある
シラスウナギは、年によって採捕状況に差が出る水産資源です。
今年の取引価格が落ち着いても、翌年に採捕量が減り、養殖業者の需要が高まれば、再び価格が上昇する可能性があります。
専門店も、その年の稚魚相場だけを見て長期的な販売価格を決められるわけではありません。成鰻の仕入れ価格や店舗運営に必要な費用を見ながら、その都度判断しています。
完全養殖の研究は実用化に向けて続いている
人工的にシラスウナギを生産する技術が普及すれば、天然資源の採捕状況に左右されにくい養殖体制へ近づく可能性があります。
現在は、人工種苗を効率よく育てる水槽の開発や、飼育方法の改良、自動給餌による省力化などが進められています。
一方で、人工種苗を天然のシラスウナギに代わる価格と数量で、全国の養殖場へ供給できる段階ではありません。完全養殖の実用化によって、近いうちにうなぎが大幅に安くなると考えるのは早いでしょう。
山美世が仕入れたうなぎにかける手間
うなぎが高価になった今、専門店に求められるのは、価格の理由を説明することだけではありません。
仕入れたうなぎをどのように扱い、どのような一皿へ仕上げるのか。素材の値段だけでは見えない仕事まで含め、納得していただける味を届けることが大切だと山美世は考えています。
仕入れから地焼きまでの仕事
山美世では、主に鹿児島県や愛知県で養殖された国産うなぎを仕入れています。
産地名だけで判断するのではなく、身の厚みや脂のり、皮の状態などを見ながら、山美世の地焼きに合うものを選ぶことが大切です。
同じ養殖場から届いたうなぎであっても、一尾ごとに身質や脂の状態は異なります。その違いを見極めるところから、専門店の仕事は始まっています。
大根島の地下水で数日間泳がせる
仕入れた活鰻は、すぐに捌くのではなく、大根島の地下水が流れる生け簀で数日間泳がせます。
山美世では、この工程を経てから一尾ずつ状態を確認し、調理に入ります。仕入れた素材をそのまま使うのではなく、焼く前の状態を整える時間も、味づくりの一部です。
蒸さずに焼き上げる地焼き
山美世の蒲焼は、蒸しの工程を入れず、生のうなぎを直接焼く地焼きです。
皮目にじっくり火を入れ、余分な脂を落としながら香ばしさを引き出します。火が強すぎれば表面が焦げ、弱すぎれば脂が重く残るため、うなぎの大きさや状態に合わせた火加減が欠かせません。
一尾ごとに焼き具合を見極め、皮目の香ばしさと身のふっくらとした食感を引き出していきます。
受け継いできたタレで仕上げる
地焼きしたうなぎには、山美世が受け継いできたタレをまとわせます。
タレの味で素材を覆い隠すのではなく、焼いたうなぎの香りや脂と調和するように仕上げることが大切です。
仕入れ、地下水での管理、捌き、地焼き、タレ。そのどれか一つだけでは、山美世の蒲焼にはなりません。一連の仕事を重ねることで、ようやく一皿の味が完成します。
国産と外国産で価格差が生まれる背景
国産うなぎと外国産うなぎには価格差がありますが、産地名だけで味や品質のすべてが決まるものではありません。
養殖される地域や規模、うなぎの種類、育て方、出荷する大きさ、加工方法、輸送形態など、さまざまな条件が価格に関係しています。
産地表示と価格を考えるときのポイント
養殖水産物の原産地は、原則として最も長い期間養殖された場所を基準に表示されます。
そのため、「国産うなぎ」という表示は、日本国内で最も長く養殖されたことを示します。稚魚であるシラスウナギが、必ず国内で採捕されたという意味ではありません。
国産か外国産かは一つの目安になりますが、その表示だけで養殖や流通の過程まですべて判断することはできません。
養殖規模や流通方法も価格を左右する
外国産うなぎは、大規模な養殖場でまとまった量を生産・加工することで、一尾当たりの費用を抑えやすい場合があります。
また、活鰻のまま輸送するのか、現地で加工して冷凍状態で運ぶのかによっても費用は変わります。国内外の人件費や燃料費、養殖場の規模も価格差が生まれる要因です。
価格の違いを、そのまま品質の優劣へ結びつけるのは適切ではありません。
種類と産地は分けて考える
「国産・外国産」は、主に養殖された場所を表す区分です。一方、「ニホンウナギ」「アメリカウナギ」などは、生物としての種類を表します。
外国で養殖されたニホンウナギもあれば、ニホンウナギとは異なる種類の輸入うなぎもあります。産地と種類を一緒に考えると、うなぎの違いが分かりにくくなります。
最後の味は店の扱い方でも変わる
同じ産地や同じ養殖場のうなぎであっても、保管状態や捌き方、焼き方によって仕上がりは変わります。
蒸して柔らかく仕上げるのか、地焼きで皮目を香ばしく焼くのか。火入れやタレの合わせ方によっても、味の印象は大きく異なります。
価格や産地だけでなく、どのような焼き方や食感を好むのかまで考えて店を選ぶと、自分に合った一皿を見つけやすくなります。
「値札だけじゃ、鰻の値打ちは決まらねぇ。仕入れて、泳がせて、焼き切って――そこまでやって一人前よ。」
まとめ|うなぎの価格は仕入れから提供までの積み重ね
うなぎの価格は、シラスウナギの相場だけでなく、養殖中の飼料代や燃料費、加工費、輸送費など、いくつもの費用が重なって決まります。豊漁や稚魚価格の下落があっても、店頭価格へ反映されるまでには時間がかかり、将来の値動きを一概に予測することはできません。
山美世では、主に鹿児島県や愛知県から国産うなぎを仕入れ、大根島の地下水で状態を整えてから一尾ずつ地焼きしています。決して気軽な価格の食事ではないからこそ、ひと口目から最後まで「食べてよかった」と感じていただける一皿を、これからも丁寧にお届けしてまいります。
山美世のうなぎ
届くのは、老舗の仕事。























