- 「うなぎの本来の旬は冬で、夏は痩せていて美味しくない」
- 「土用の丑の日はただの宣伝で、味は二の次なんでしょう?」
食にこだわりのある方ほど、そんな疑問を抱き、夏にうなぎを食べることを「妥協」だと感じているかもしれません。
結論から申し上げます。確かに天然うなぎのピークは冬ですが、現代の養殖うなぎにおいては、その常識は通用しません。職人の技術と徹底した管理によって、夏には夏の、冬には冬の「最高の一皿」が確実に存在するからです。情報に惑わされて、目の前の美味しい一尾を逃すのはあまりにも勿体ないことです。
この記事では、年間10万尾を焼く鰻師が、天然と養殖の決定的な旬の違いや、メディアが伝えない「季節ごとの味の変化」、そして通が狙うべき「うなぎが最も旨い3つの時期」を徹底解説します。
『夏は旬じゃない』なんて言ってるうちは、まだまだ素人だな。 俺たち職人が、夏に一番旨くなるように育てて、焼いてねぇわけがないだろ? 季節を言い訳にするような鰻屋には行くなよ。今の時期の俺の焼き、飛ぶぜ?
うなぎの旬の季節はいつ?「天然は冬・養殖は通年」が正解

「うなぎの旬はいつですか?」 この質問を投げかけられた時、私たち職人は即答しません。なぜなら、あなたが食べようとしているうなぎが「天然」なのか「養殖」なのかによって、答えが180度変わってしまうからです。
メディアや食通の間でまことしやかに囁かれる「うなぎの旬は冬だ」という説。これは間違いではありませんが、あくまで「天然うなぎ」に限った話です。私たちが普段口にしているうなぎの大半を占める「養殖うなぎ」においては、この常識は通用しません。 まずは、この複雑な「旬」の定義を整理し、情報のミスマッチを解消しましょう。
そもそも「旬」の定義とは?「脂の乗り」か「需要」か
魚介類における「旬」という言葉には、大きく分けて2つの意味が存在します。 一つは、産卵前などで魚体に栄養が蓄えられ、脂が乗って最も美味しくなる「味の旬」。 もう一つは、漁獲量が増えたり、季節的な行事によって人々がこぞって食べたがる「需要の旬」です。
うなぎの場合、この2つが見事にズレています。 「味の旬」で言えば、確かに天然うなぎは水温が下がる晩秋から冬にかけて脂が乗ります。しかし、江戸時代の平賀源内の発明以来、土用の丑の日を中心とした夏こそが「需要の旬」として定着しました。 このズレこそが、「夏に食べるのは間違いではないか?」という消費者の混乱を招いている最大の原因なのです。
市場に出回る99%は養殖。「天然の常識」を当てはめる落とし穴

ここで冷静になって考えていただきたい数字があります。現在、日本国内で流通しているうなぎのうち、天然ものが占める割合はごくわずか、1%未満とも言われています。つまり、あなたがスーパーや一般的なうなぎ店で口にするうなぎの99%以上は「養殖」なのです。
後述しますが、養殖うなぎは人間が徹底的に環境を管理して育てています。そこに「自然の摂理(冬に脂が乗る)」という天然のルールを無理やり当てはめて論じるのは、ナンセンスと言わざるを得ません。 「天然の旬は冬」という知識は教養として正しいですが、それを理由に「夏の養殖うなぎ」を避けるのは、美味しい出会いを自ら放棄しているのと同じことなのです。
スーパーに並んでるうなぎを見て『旬じゃないから』ってスルーする奴、本当にもったいないねぇ。 今の養殖技術をナメちゃいけない。あいつらは『一年中が旬』になるようにプログラムされたエリートなんだよ。 教科書通りの知識で飯が食えるか? 目の前の『旨いもん』を信じな。
「うなぎの旬は夏じゃない」説の根拠。天然うなぎの生態をハックする

巷でよく耳にする「夏にうなぎを食べるのは邪道」という意見。これは決して意地悪で言っているわけではなく、天然うなぎのライフサイクルに基づいた生物学的に正しい主張です。 うなぎという生き物が、一年の中でどのように体を変化させていくのか。そのメカニズムを知ることで、なぜ冬が絶品とされるのかが論理的に理解できます。
天然うなぎが最も旨くなる「冬(寒鰻)」の特徴とメカニズム
変温動物であるうなぎは、水温の影響をダイレクトに受けます。 秋が深まり、川の水温が下がってくると、天然うなぎは来るべき冬の冬眠、あるいは産卵のための長い旅に備えて、餌をむさぼるように食べ始めます。
この時期に摂取した栄養は、厳しい寒さを乗り越えるためのエネルギー源として、極上の皮下脂肪へと変換されます。これが、いわゆる「乗り」と呼ばれる状態です。 特に10月頃から12月にかけて捕獲されるうなぎは、腹の底まで黄色く輝き、身はパンパンに張り詰め、捌くと包丁が脂でベトベトになるほどです。この時期のうなぎは「寒鰻(かんうなぎ)」と呼ばれ、食通たちがこぞって追い求める至高の食材となります。
寒鰻の脂は、ただ濃厚なだけではありません。冷たい水の中でゆっくりと蓄えられた脂は、融点が低く、口に入れた瞬間にサラリと溶けるような上品さを持っています。この「脂の質」こそが、冬の天然うなぎが王様と呼ばれる所以なのです。
なぜ夏場の天然うなぎは「味が落ちる」と言われるのか

一方で、土用の丑の日がある夏場はどうでしょうか。 水温が上昇する夏は、うなぎにとって最も活動的な季節です。餌を求めて活発に泳ぎ回るため、摂取したカロリーはすぐに運動エネルギーとして消費されてしまいます。 人間で例えるなら、冬のうなぎが「冬眠前の熊」であるのに対し、夏のうなぎは「シーズン中のマラソンランナー」のようなものです。筋肉質で引き締まってはいますが、冬のようなとろける脂は期待できません。
また、夏場の川は水温上昇に伴って藻やバクテリアが繁殖しやすく、水質が悪化しやすい傾向にあります。呼吸と共に大量の水を吸い込むうなぎは、その川の環境をそのまま体内に取り込むため、夏場の天然うなぎは特有の「泥臭さ」や「カビ臭さ」を感じることが多くなります。 「身が痩せていて、少し臭みがある」。これが、食通たちが夏場の天然うなぎを避ける生物学的な理由なのです。
夏のアスリートみたいな天然うなぎを食って『硬い』『脂がない』って文句言うのは野暮ってもんだ。 そいつらは生きるのに必死で、人間に食われるために太ってるわけじゃねぇからな。 ま、それを差し引いても冬の『寒鰻』の旨さは別格だ。一度あの脂を知っちまうと、戻れなくなるぜ?
現代の養殖うなぎに「旬の壁」はない。夏でも最高に旨い理由

天然うなぎが季節や環境の変化に翻弄される「野生児」だとするならば、養殖うなぎは徹底管理された環境で育てられる「エリートアスリート」です。 彼らには「冬だから脂が乗る」「夏だから痩せる」といった自然界のルールは適用されません。なぜなら、人間がテクノロジーを駆使して、一年中いつでも「旬」の状態を作り出しているからです。
水温と餌のコントロールで「人工的な旬」を作る技術
養殖場(池)の環境は、まさに温室そのものです。 多くの養殖場では、年間を通して水温が一定に保たれた地下水を利用したり、ボイラーで加温したりすることで、うなぎが最も活発に餌を食べ、かつ健康に育つ最適な温度(約28度前後)をキープしています。
天然うなぎが冬眠や活動のためにエネルギーを消費してしまうのに対し、養殖うなぎは快適な環境で、計算され尽くした高栄養の餌をたっぷりと与えられます。 これにより、春だろうが夏だろうが、関係なく丸々と太ることができるのです。 特に、最大の需要期である夏の土用の丑の日に合わせて、最高の仕上がりになるよう逆算して育てられた養殖うなぎは、ある意味で「夏こそが人工的な旬」と言っても過言ではありません。
「養殖は味が薄い」というのは昔の話。現代の養殖うなぎは、脂の量もコントロール可能であり、天然にはない「安定した濃厚な旨味」を一年中提供できるポテンシャルを持っています。
山美世がこだわる「夏の地焼き」に合わせた仕立てとは

「一年中美味しい」とは言っても、私たち山美世は「一年中同じうなぎ」を出しているわけではありません。 私たちがこだわる「地焼き(関西風)」は、蒸しの工程を入れず、生のうなぎをそのまま炭火で焼き上げる調理法です。そのため、素材の良し悪し、特に「皮の柔らかさ」と「身の水分量」がダイレクトに食感に影響します。
夏場は、気温が高くお客様もスタミナを求めています。そこで私たちは、脂は乗っているけれどもしつこすぎず、皮が薄くて柔らかい「新仔(しんこ)」と呼ばれる若い養殖うなぎを積極的に選びます。 養殖期間が1年未満の新仔は、身も皮も驚くほど柔らかく、地焼きにすることで表面はパリッと、中はトロリとした極上の食感を生み出します。
逆に冬場は、少し育った「ひね」と呼ばれる個体の中でも、脂が乗り切ったものを選び、じっくりと火を通して濃厚な味わいを引き出します。 つまり、養殖技術というベースの上に、職人の目利きで「その季節に一番美味しく感じる個体」を選び抜いているからこそ、夏でも最高の一皿を提供できるのです。
ビニールハウスのメロンが一年中甘いように、俺たちのうなぎも一年中『食べ頃』なんだよ。 特に夏場に出回る『新仔(しんこ)』の柔らかさは格別だ。 『夏は旬じゃない』なんて理屈をこねてる間に、この奇跡みたいなフワトロ食感を逃すなんて、人生損してるぜ?
職人が推奨する「うなぎが最も旨い時期」ベスト3

「一年中美味しい」という前提の上で、あえて私たち職人が「この時期のうなぎは面白い」「この時期は特に食べてほしい」と感じるベストシーズンを3つピックアップしました。 あなたの好みや利用シーンに合わせて、狙い撃ちしてみてください。
【1】10月〜12月:天然・養殖ともに脂が乗る「王道の冬」
「脂の乗り」を最優先するなら、やはり冬は外せません。 天然うなぎはもちろんのこと、養殖うなぎであっても、気温の低下とともに本能的に脂を蓄えようとする傾向が見られます(ハウス内でも外気の影響をゼロにはできないため)。
この時期のうなぎは、箸を入れるとジュワッと脂が溢れ出すほど濃厚です。 おすすめの食べ方は、タレではなく「白焼き」。ワサビ醤油や岩塩でシンプルにいただけば、上質な脂の甘みと香りをダイレクトに感じることができます。熱燗や重めの赤ワインと合わせれば、至福の時間になること間違いありません。
【2】7月〜8月:スタミナとあっさりした脂を楽しむ「情熱の夏」
「うなぎといえば夏」というイメージは、決して間違いではありません。 この時期には、養殖期間が短く、身も皮も非常に柔らかい「新仔(しんこ)」と呼ばれる若いうなぎが多く出回ります。 新仔は、脂が乗っているのにクドさがなく、後味がさっぱりしているのが特徴です。
日本の蒸し暑い夏には、こってりしすぎた脂よりも、新仔のようなキレのある脂と、甘辛いタレの相性が抜群です。 汗をかきながら、焼きたての蒲焼と熱々のご飯をかっこむ。この「背徳感」と「高揚感」こそが、夏のうなぎの醍醐味であり、理屈抜きに「旨い!」と感じる瞬間です。
【3】9月〜10月:皮が柔らかい「新仔」が出回る「食欲の秋」
実は、通の間で密かに人気なのがこの時期です。 夏にピークを迎えた新仔の出荷が続きつつ、少しずつ水温が下がり始めて脂の乗りが深まってくる、まさに「夏と冬のいいとこ取り」ができる移行期間です。
皮はまだ柔らかいまま、身の味わいが少しずつ濃厚になってくるため、蒲焼にしても白焼きにしてもバランス良く楽しめます。「食欲の秋」の言葉通り、ご飯が止まらなくなる危険な季節と言えるでしょう。
個人的に一番好きなのは、秋口(9月〜10月)のうなぎかな。 夏の元気さと冬の落ち着きが混ざり合ってて、焼いてて一番面白いんだよ。 まぁ、真夏の繁忙期に、汗だくで焼いて食う賄いのうなぎも最高だけどな。 結局、いつ食っても旨いもんは旨いってことよ(笑)
季節で使い分ける!プロ直伝のうなぎの楽しみ方

ここまでお読みいただければ、もう「夏は旬じゃないから我慢しよう」なんて考える必要がないことはお分かりいただけたはずです。 最後に、私たち職人が実践している、季節ごとの粋なうなぎの楽しみ方(使い分け)を伝授します。これをマスターすれば、あなたはもう立派なうなぎ通です。
夏は「蒲焼」一択。タレとご飯で勢いよくかっこむ
暑い夏、身体が求めているのは「塩分」と「エネルギー」です。 この時期は、迷わず王道の「うな重(蒲焼)」を選んでください。
前述の通り、夏場は皮が柔らかくあっさりした脂の「新仔」が中心です。これを強火でパリッと焼き上げ、甘辛いタレをたっぷり絡めることで、うなぎの脂とタレが混然一体となり、爆発的な旨味が生まれます。 山椒を少し多めに振って、熱々のご飯と一緒に口いっぱいに頬張る。このパワフルな食べ方こそが、夏のうなぎの正解です。
冬は「白焼き」で勝負。凝縮された脂と日本酒のペアリング
一方で、脂がこってりと乗ってくる冬場は、ぜひ「白焼き」に挑戦してみてください。 タレで味を誤魔化さず、うなぎ本来の素材の良さを楽しむ食べ方です。
冬の濃厚な脂は、タレだと少し重たく感じることもありますが、白焼きにしてワサビ醤油や柚子胡椒、あるいは岩塩でいただくと、驚くほどさっぱりと、かつ甘みを強く感じられます。 ここに合わせるべきは、島根の地酒など、少し辛口の日本酒です。うなぎの脂を日本酒で流し込む瞬間の幸福感は、大人の特権と言えるでしょう。
まとめ:情報に踊らされず、目の前の「旨い」を信じろ

「うなぎの旬は冬」というのは、天然うなぎにおける一つの事実に過ぎません。 99%を占める養殖うなぎにおいては、「一年中が旬」であり、さらに言えば「あなたが食べたいと思ったその瞬間が旬」なのです。
私たち山美世は、夏には夏の、冬には冬の、その時期に一番輝いているうなぎを選び抜き、その日の気温や湿度に合わせて焼き加減を微調整しています。 「今は旬じゃないかも」と疑う必要はありません。暖簾(のれん)をくぐれば、そこには常に、職人がプライドを懸けて仕上げた最高の一杯が待っています。
次の週末は、ぜひ季節に合わせた食べ方で、うなぎの奥深さを堪能しにいらしてください。
ま、ごちゃごちゃ言ったけどよ、結局は『食いたい時が旨い時』だ。 身体がうなぎを欲してるなら、それが正解なんだよ。 俺はいつだって炭を熾(おこ)して待ってるからな。 季節ごとの焼きの違いが分かるようになったら、あんたも俺と一緒で『うなぎ沼』の住人だ。歓迎するぜ?
山美世のうなぎ
届くのは、老舗の仕事。

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