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土用の丑の日の由来とは?意味や平賀源内説、食べる理由を老舗うなぎ屋が解説

土用の丑の日の由来とは?
鰻師 卓

島根県松江市にて、大正時代より鰻料理専門店を営んでおります「山美世(やまみせ)」です。

毎年夏が近づくと、「今年の土用の丑の日はいつだろう」とカレンダーを確認する方も多いのではないでしょうか。

日本人の生活に深く根付いているこの習慣ですが、実は「季節の変わり目に滋養のあるものを食べる」という古来の風習と、「江戸時代の天才発明家によるマーケティング戦略」が見事に融合して生まれた文化であることをご存じでしょうか。

ただの迷信として片付けるにはあまりにも理にかなっており、現代の栄養学から見ても、夏のうなぎは私たちの身体にとって最強の味方です。

本記事では、うなぎ一筋で商いをしてきた私たちが、土用の丑の日の正しい由来と、なぜこれほどまでに日本人に愛され続けているのか、その理由を紐解いていきます。

鰻師 卓

2026年の土用の丑の日は、7月26日(日)です。

2026年の丑の日は日曜日にあたりますので、ご家族でゆっくりとうなぎを楽しむには絶好の機会と言えるでしょう。 今年の夏を元気に乗り切るためにも、まずはこの日の持つ本当の意味を知っていただければ幸いです。

土用の丑の日の「由来」とは?最も有名な平賀源内説

平賀源内

土用の丑の日の由来には諸説ありますが、最も有力であり、かつ定説として広く知られているのが、江戸時代の発明家・平賀源内(ひらがげんない)が仕掛けたという説です。

これは単なる思いつきではなく、現代でいうところの「キャッチコピー」と「行動心理」を巧みに利用した、日本最古のマーケティング事例とも言われています。

客足に悩む鰻屋を救ったキャッチコピー

うなぎキャッチコピー

時は江戸時代。ある鰻屋が、夏場にうなぎが売れないことで頭を抱えていました。 実は、天然のうなぎの旬は冬眠に備えて栄養を蓄える「晩秋から冬」であり、夏場のうなぎは痩せて味が落ちるとされていたため、当時は夏にうなぎを食べる習慣が一般的ではなかったのです。

困り果てた鰻屋の店主は、博識で知られていた平賀源内に相談を持ちかけます。相談を受けた源内は、店先に「本日、土用丑の日」という張り紙をするようアドバイスを送りました。

すると、その張り紙を見た人々がこぞって店に吸い込まれ、その鰻屋は大繁盛しました。これを真似した他の店も次々と繁盛したことから、「土用の丑の日にうなぎを食べる」という風習が定着したと言われています。

なぜこの言葉が江戸の庶民に刺さったのか?

江戸時代の町並み

では、なぜ「本日、土用丑の日」と書くだけで、人々はうなぎを食べたくなったのでしょうか。これには、当時信じられていた民間伝承が大きく関係しています。

江戸時代には、「丑(うし)の日には『う』のつく食べ物を食べると夏負けしない(病気にならない)」という言い伝えがありました。 うどん、梅干し、瓜(うり)などがその代表でしたが、平賀源内はこの風習に目をつけ、「う」のつく食べ物として「うなぎ」を強烈に結びつけたのです。

「今日は丑の日だから、縁起の良い『う』のつくうなぎを食べよう」という庶民の心理を突き、売れない時期の需要を掘り起こしたこの手法は、現代のビジネスにも通じる極めて戦略的な解決策でした。

平賀源内だけじゃない?由来に関する「3つの諸説」

先ほどご紹介した平賀源内説が最も有名ですが、実は土用の丑の日の起源には他にもいくつかの興味深い説が存在します。 私たちうなぎ職人の間でも話題に上ることがある、代表的な3つの説をご紹介しましょう。

大田南畝(蜀山人)説

大田南畝(蜀山人)説

平賀源内と同じ時代に活躍した狂歌師、大田南畝(おおたなんぽ・別号 蜀山人)が仕掛けたという説です。 ある鰻屋から「味は良いのに客が来ない」と相談を受けた彼は、「神田川」という狂歌(社会風刺などを含んだ短歌)を詠み、それを宣伝に使わせました。

「土用の丑の日にうなぎを食べれば病気にならない」という内容を含んだ巧みな言葉遊びで江戸っ子の心をつかみ、大繁盛させたと言われています。平賀源内説とよく似ていますが、当時のインフルエンサーが流行を作ったという点では共通しており、いかに江戸の文化人が食文化に影響を与えていたかが分かります。

春木屋善兵衛説

春木屋善兵衛説

こちらはマーケティングではなく、うなぎの保存性に関する発見から生まれた説です。 同じく江戸時代、有名な鰻屋であった「春木屋善兵衛(はるきやぜんべえ)」のもとに、ある大名から大量の蒲焼の注文が入りました。

善兵衛は、土用の期間中の「子の日」「丑の日」「寅の日」にそれぞれ蒲焼を作り、保存状態を比較する実験を行いました。すると不思議なことに、「丑の日」に焼いたうなぎだけが変質せず、風味を保っていたといいます。 この結果から「土用の丑の日に焼いたうなぎは腐らない」という噂が広まり、無病息災の縁起物として定着したという実証実験に基づくエピソードです。

万葉集(大伴家持)からの引用説

実は、江戸時代よりもはるか昔、奈良時代の『万葉集』にはすでに「夏痩せにはうなぎが良い」という記述が登場しています。 歌人の大伴家持(おおともノやかもち)が、夏痩せしてしまった友人の石麻呂(いしまろ)に向けて詠んだ歌です。

「石麻呂殿、夏痩せにはうなぎを食べると良いと聞くから、うなぎを捕って食べなさい」

この歌からも分かる通り、日本人は1000年以上も前から、経験則として「夏バテにはうなぎが効く」ことを知っていました。この古来の知恵がベースにあったからこそ、後の平賀源内や春木屋の仕掛けが民衆にスムーズに受け入れられたのかもしれません。

そもそも「土用」と「丑の日」の意味とは?

「土用」と「丑の日」の意味とは?

ここまで「土用の丑の日」という言葉を当たり前のように使ってきましたが、そもそも「土用」とは何なのか、なぜ「丑」なのか、その言葉の定義を正しく理解している方は意外と少ないものです。 言葉の意味を紐解くと、この日が単なるうなぎ祭りではなく、季節の巡りと深く結びついた日であることが見えてきます。

土用は「夏」だけではない(陰陽五行説)

陰陽五行

「土用」と聞くと夏のイメージが強いですが、実は夏だけにあるものではありません。 土用とは、立春・立夏・立秋・立冬のそれぞれの直前、約18日間の期間を指す言葉です。つまり、土用は春・夏・秋・冬と、年に4回訪れます。

これは中国から伝わった「陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)」に由来しています。万物は「木・火・土・金・水」の5つの元素から成るとする考え方で、春は木、夏は火、秋は金、冬は水に当てはめられました。 しかし、これでは「土」が余ってしまいます。そこで、季節の変わり目であるそれぞれの期間に「土」を割り当て、「土旺用事(どおうようじ)」と呼んだのが「土用」の始まりです。

昔の人は、季節が移ろい気温が変化するこの時期を、体調を崩しやすい要注意期間として捉え、養生する習慣を持っていました。中でも暑さの厳しい夏の土用は特に重要視され、現代において「土用」といえば夏の土用を指すようになったのです。

なぜ「丑(うし)」の日なのか?

十二支

次に「丑の日」ですが、これは日付を十二支(子・丑・寅・卯…)で数える日本の古い暦の数え方です。 十二支は12日で一巡するため、約18日間ある土用の期間中には、必ず1回、多い年では2回の「丑の日」が巡ってきます。

2回巡ってくる場合、1回目を「一の丑」、2回目を「二の丑」と呼びます。 うなぎを食べる習慣が「丑の日」に定着したのは、前述の通り「う」のつく食べ物を食べて無病息災を願うという語呂合わせの要素が強かったようです。

つまり土用の丑の日とは、「季節の変わり目で体調を崩しやすい時期(土用)」に、「縁起の良い日(丑の日)」を選んで、栄養満点のうなぎを食べて精をつけようという、先人たちの知恵と願いが込められた日なのです。

うなぎ屋が教える「夏にうなぎを食べる」本当のメリット

「夏にうなぎを食べる」本当のメリット

平賀源内の宣伝から始まった習慣とはいえ、現代まで廃れることなく続いているのには明確な理由があります。それは、うなぎという食材が持つ栄養価と、日本の夏という気候の相性が、奇跡的と言えるほど抜群だからです。 ここでは精神論ではなく、現代栄養学と職人の視点から、夏にうなぎを食べるメリットを解説します。

栄養学的見地から見る夏バテ防止効果

うなぎは、一尾で人間が必要とする栄養素の多くを摂取できることから「食べる美容液」「総合栄養食」とも呼ばれています。 中でも特筆すべきは、疲労回復に不可欠な「ビタミンB1」の含有量です。ビタミンB1は、糖質をエネルギーに変える際に必要な栄養素であり、これが不足すると体内に疲労物質が蓄積し、いわゆる「夏バテ」の状態を引き起こします。

さらに、うなぎには「ビタミンA」が非常に豊富に含まれています。ビタミンAは、夏の強い紫外線でダメージを受けた皮膚や、エアコンによる乾燥で弱った喉・鼻の粘膜を健康に保つ働きがあり、夏風邪の予防にも効果的です。 汗と共に失われがちなカリウムやカルシウムなどのミネラルもバランスよく含んでいるため、食欲が落ちて栄養不足になりがちな夏こそ、少量で効率よく栄養を補給できるうなぎは、理にかなったスーパーフードなのです。

「旬は冬」と言われるが、夏も美味い理由

うなぎ通の方であれば、「うなぎの本来の旬は冬ではないか」という疑問をお持ちかもしれません。 確かに天然のうなぎは、冬眠に備えて脂肪を蓄える晩秋から初冬にかけてが最も脂が乗り、旬とされています。しかし、だからといって夏のうなぎが美味しくないわけではありません。

私たち職人は、夏には夏の、冬には冬の焼き方を変えています。 特に当店「山美世」がこだわり続ける関西風の「地焼き」は、蒸さずに炭火で直焼きすることで、皮目をパリッと香ばしく仕上げます。夏場はこってりとした脂よりも、この香ばしさと凝縮された旨味が、減退した食欲を強烈に刺激してくれるのです。 また、現代の養殖技術や目利きにより、夏場であっても上質な脂を持った個体を選別することは可能です。旬の時期とはまた違った、夏ならではの力強い味わいを楽しめるのも、プロの仕事があってこそと言えます。

2026年の土用の丑の日はいつ?【カレンダー】

鰻師 卓

次回の夏の土用の丑の日は、2026年7月26日(日)です。

この年は「一の丑」の一回のみとなります。日曜日にあたりますので、ご家族やご親戚が集まって食卓を囲むには絶好の日程と言えるでしょう。 毎年、当日は店舗も通販も大変混み合い、人気の商品は早い段階で完売してしまうことが予想されます。本当に美味しいうなぎを確実に楽しむためには、1ヶ月前からのご予約や、通販でのお取り寄せ手配を済ませておくことを強くおすすめします。

まとめ:由来を知れば、うなぎはもっと美味しくなる

土用の丑の日は、単なる「うなぎを食べる日」ではありません。 それは、季節の変わり目を健康に過ごそうとした先人たちの知恵(土用)と、江戸時代の天才による粋なアイデア(平賀源内)が重なり合い、日本の食文化として結晶化した特別な一日です。

「宣伝に乗せられている」と斜に構えるのではなく、「先人たちもこうして夏を乗り切ったのだ」と歴史に思いを馳せながら頬張るうなぎは、きっといつもより味わい深く感じられるはずです。

今年の夏は、スーパーのうなぎで済ませるのではなく、職人が炭火で焼き上げた本物の味で、心も体も満たしてみませんか。 山美世では、創業以来守り続けてきた秘伝のタレと、妥協のない焼きの技術で、皆様の無病息災を願う最高の一尾をご用意してお待ちしております。

山美世のうなぎ

届くのは、老舗の仕事。

うなぎ処 山美世 六代目店主 渡部 卓

島根県松江市にて大正時代から続く「山美世」の現当主。 代々続く秘伝のタレを守りつつ、脂を落とさず鰻本来の旨味を引き出す「地焼き(関西風)」の技術を研鑽。「鰻は生き物であり、一尾として同じ個体はない」という信念のもと、季節や個体差に合わせた火入れを徹底。

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